インタビュー

在宅復帰率50%超え!最高評価の超強化型に認定された介護老人保健施設デンマークイン新宿の介護

多くの人が行き交いにぎわう、東京都新宿区。人通りの多い新宿駅から少し離れ、静かな町並みが続く新宿区原町にある施設が、介護老人保健施設 デンマークイン新宿です。

新宿区にある介護老人保健施設(老健)は、わずか3施設。
そのひとつであるデンマークイン新宿は、認定介護福祉士の松川春代さんが勤めている施設でもあります。

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介護プロフェッショナルキャリア段位制度と呼ばれる、最新の評価制度を導入したり、在宅復帰率が50%を超え、老健で最も評価の高い「超強化型」に認定されたりと、多くの特色がある施設です。

そんなデンマークイン新宿の施設長で医師の辻よね子(つじよねこ)さんにお話をお伺いしました!

「超強化型」を実現させた、攻めの介護

___デンマークイン新宿の概要を教えてください。

辻よね子さん(以下、辻):デンマークイン新宿とは、特定医療法人研精会が母体となって平成15年12月1日に設立された、定員160人の介護老人保健施設です。デイケア(通所リハビリ)が併設してあります。
100人前後を定員とする老健が多いので、少し大きめの規模となります。
変動はありますが、職員数は145人程度で、うち80人前後が介護職員として働いています。

▲デンマークイン新宿の居室の一例。4人部屋、2人部屋、個室の3タイプがある

___デンマークイン新宿には、どのような特色がありますか?

辻:デンマークイン新宿には、大きく2つの特色があります。
ひとつは、介護老人保健施設の評価によって分けられた5つのタイプのうち、最も評価の高い「超強化型」に認定されていることです。

近年、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など多様化された高齢者向けの施設が増えています。
多くの施設が存在するなか、平成30年度の介護保険制度改正で介護老人保健施設の役割が明確化されました。役割の明確化により、老健の特徴である「在宅復帰・在宅療養支援機能」を高く評価することが決定。そのほか、リハビリ専門職の配置割合などさまざまな側面から老健を評価し、合計値の高い順に、「超強化型」「在宅強化型」「加算型」「基本型」「その他型」の5つに分けられることになりました。

デンマークイン新宿は在宅復帰率50%を超え、さまざまな要件を満たし、超強化型の評価を得ることができました。

出典:厚生労働省 平成30年度介護報酬改定における各サービス毎の改定事項について

___すごいですね!超強化型になるための秘訣はなんでしょうか?

辻:秘訣になるかはわかりませんが、自宅に帰ることを想定したリハビリを行っています
リハビリ職などが利用者さんの自宅に訪問し、実際の家のつくりを確認してリハビリの計画を作成します。単に筋力を鍛えるのではなく、家にある階段を想定してリハビリをするなど、一人ひとりの環境を踏まえた実践的在宅復帰への取組を行っています。

▲在宅復帰に向けたリハビリを行う、リハビリ科の太田さん

私は、「利用者さんの人生の最終章を輝かせたい」というひとつの願いを持っています。
ただお預かりするのではなく、「家に帰りたい」と願っている方で、家に帰る能力が少しでもある方には、その願いを叶えられるように環境を整えます。
攻めの介護」というのでしょうか。
利用者さんの状態を少しでも良くするために、受け身ではなく積極的に関わっていきたいと思っています。

ただ、どんなにがんばって在宅復帰の支援をしていても「超強化型」になれない施設もあります。なぜなら、入所する時点での利用者さんの病気や状態によって、在宅復帰の可否が分かれるからです。寝たきりなどの重度の利用者さんが多い施設は、なかなか難しい現実があるでしょう。
しかし、そのような老健の存在意義も大きいと思います。
ニーズに応えられるから重度の方が入所するのです。それもひとつの老健の機能。超強化型がすべてではなく、その地域に合わせたサービスを提供していくことが大事だと思います。

「R4システム」を導入し、多職種協働を実現

___デンマークイン新宿のもうひとつの特色とは、どのようなものでしょうか?

辻:全老健版ケアマネジメントシステムである「R4システム」を導入し、多職種協働を実践していることです。

▲R4システムの総合計画書の一例。多職種が平等に意見を記入できる

R4システムとは、公益社団法人全国老人保健施設(全老健)が介護老人保健施設でのケアを老健の理念に適ったものにするために開発したシステムです。
老健では、ひとりの利用者さんに対して、介護職をはじめ、医師や看護師、リハビリ職などさまざまな職種が関わります。その多職種によるサービスや気づきを一括してパソコン上で管理できるようになっています。それを参考にケアマネジャーがケアプランを作成します。

とくに昔は、医師がほかの職種に指示を出すといったトップダウン式の老健も多かったと思います。つまり、職種によって格差がありました。
R4システムを用いれば、それぞれの職種の意見などがパソコンに集約されるため、同じ重要度で各専門職の考えを確認できます。職種に関係なく意見が平等に扱われ、格差が減りました。
多職種協働より、むしろ「多職種平等」になったと思います。

▲多職種協働を表した図。どの職種も同じ大きさの丸であり、平等を示している

ただ、R4システムをきちんと機能させるためには、それぞれの専門職に高い能力が求められます。システムを使いこなすのはもちろん、専門職としての意見や観察力をしっかり持ち、それを言葉にする力が必要です。

病院の役割も担う!社会的責任の大きい老健

___老健は、ほかの施設形態と比べて、何が魅力的だと感じますか?

辻:老健の魅力は、病院の役割も担いつつ「在宅復帰」を目標に、さまざまな職種が協力して働けることだと思います。
実は、先述した「超強化型」の役割は、ひと昔前まで、病院が担っていました。
病院に入院した患者さんの多くは、治療してリハビリして、良くなれば自宅に帰ります。
しかし、時代の流れとともに、病院での長期入院や長期リハビリが難しくなりました。
高齢化、財源不足、人材不足、認知症患者の増加などさまざまな要因があります。とくに、認知症の方の治療やリハビリは、病院でははかどりにくいのが現状です。
病院は、医療を提供する場所ですが、認知症の方は、医療だけでなく介護も必要とします。医療と介護、セットで提供してくれる場所でなければ、認知症の方の治療に効果が出にくいのです。
そのため、病院によっては、介護が必要な患者さんを認知症専門病棟がある病院や老健に任せます。

___病院でできないことを老健がしているのですね!

辻:そうですね。認知症の方だけではなく、病気は治ったけれど、筋力が低下して歩けなくなるなどのいわゆる「廃用症候群」と呼ばれる症状の方も、老健に入所して適切なケアを受けられます。
病院は、レクリエーションがなかったり人との交流が少なかったりと、ベッドで過ごす時間が長くなるので、年齢や病気によっては、入院時よりも状態が悪化する方もいるのです。
病院でできなかった、介護と連携した医療・リハビリを提供することで、徐々に回復し自宅に帰る人も多いです。

さらに、自宅に帰ったあとも、併設しているデイケアを利用してリハビリに通う人もいます。その機能も、昔は病院が担っていました。昔は退院後も、長期間リハビリに通うことが可能だったのですが、現在は病院でリハビリできる期間が決まっています。

そのような、病院でできなくなった役割を担っているのが老健だと思います。
以前は、老健もそこまで明確な役割が決まっていませんでした。しかし、時代とともにニーズが変わっていき、社会的責任はより大きなものになっていると感じます。

___老健は、利用者さんの在宅復帰という大きな責任を果たしているのですね。

辻:はい。しかし、家に帰れる人ばかりではありません。
たとえ状態が回復したとしても、ご家族や支えてくれる人がどこまで支援してくれるかという介護力によって、在宅復帰の可否が決まるケースも少なくないのです。
そのような方にとって、特別養護老人ホームのような穏やかに余生を過ごせる場所は必要です。必ずしも、在宅復帰が正解とは限らないでしょう。

元気になって家に帰りたい方、退所後もリハビリに通いたい方、どうしても家で看取ってほしいと願うターミナルの方、老健での看取りを希望する方など、時代とともに老健の利用者さんのニーズも多様化しました。
そのような利用者さんの多様なニーズに応えるために、できるだけの選択肢があったほうがいいと考え、デンマークイン新宿では「看取り」をはじめました。
最初は、「在宅復帰を目指す老健で看取りをするなんて……!」と反対されましたが、いまは、みんな納得してくれていると感じます。
利用者さんのメリットだけではなく、職員としても今まで経験できなかった「看取り」を経験することで、介護職としての学びが深まる環境となります。

私は、利用者さんやご家族のニーズを聞いて、その人らしい最期を提供することが大切だと考えます。
在宅復帰はもちろん大切です。しかし、在宅復帰ばかりにとらわれずに、利用者さん一人ひとりがその人らしく過ごせる環境を整えていきたいですね。

___多様なニーズに応えているのですね。老健はどのような人材が向いていると思いますか?

辻:目標を持ってケアをし、実力を付けたい人が向いていると思います。
老健は医療設備が整っているため、さまざまな病気・状態の利用者さんが入所します。ほかの施設よりも多職種と連携する機会は多く、たくさんの経験と知識を得られると思います。さらに、特養や有料老人ホームよりも利用者さんの出入りが多いので、コミュニケーション力も鍛えられます。
なにより、「在宅復帰」などの目標を持って利用者さんのケアを行える点は、老健ならではのやりがいだと思います。
介護職員としての基礎実力は十分に身に付けられるので、そのような気持ちのある方はぜひ老健に来てほしいです。

実力をつけて、全国の介護施設のリーダーに!

___施設長として、どのような思いで日々職員と向き合っていますか?

辻:うちの介護職員には、全国の介護施設のリーダーとして活躍してほしいと思っています。
本当は、ずっとここの施設で働いてほしいという思いもありますが、優秀な人材がひとつの施設に集中しても良くないと思います。

介護業界は人手不足だけではなく、リーダー不足です。
看護業界では、みなさん看護学校や看護学科で学び、一通りの知識・教育を得た人が看護師になります。一方、介護業界は、介護の専門学校を卒業した人もいれば、無資格の人、中途採用の方も多いです。外国の方もどんどん増えており、経歴や資格、人種などがバラバラの多種多様な人材をまとめ上げるのはなかなかの一苦労だと思います。
だからこそ、介護業界では優秀なリーダーが求められています
私は、一人ひとりがどんな利用者さんにも対応できる実力を、ここで身に付けてほしいと願っています。そして実力を付けたあと、リーダーとして全国に羽ばたいて、たくさん活躍してほしいですね。

___さいごに、全国の介護職員に一言お願いします。

辻:介護は、暗いイメージがありますが、決してその通りではないと思います。
介護職って、ものすごく難しい職種です。そして、本気で取り組めば非常にやりがいのある職業でもあります。
介護職がやりがいを感じるためには、個人の努力も必要ですが、周囲の支援も大切です。現状の暗いイメージのままではなく「介護って素晴らしいよね!」と周りから盛り立てる必要があります。
しかし、介護職が周囲から盛り立てられるためには、「すごいな」と思わせるような実力を持っていることも必要です。
介護職は、決して誰にでもできる仕事ではありません。自信を持って、実力をつけて、周囲にものを言えるような人であってほしいと願います。
そうすれば、日本の介護施設はもっと良くなるのではないでしょうか。
介護職員が喜んで仕事に励めるような環境を、みんなでつくっていけたらいいなと思います。

編集後記

介護老人保健施設 デンマークイン新宿の施設長 辻よね子さんにお話をお伺いしました。
とてもチャーミングな笑顔が印象的の辻施設長。明るい雰囲気で場を和ませながら話してくれました。
医師としての経験豊富な施設長ですが、自分の意見が正解と豪語することはなく、常に他の選択肢のメリット・必要性も伝えてくれました。
柔軟な考えの辻施設長だからこそ、老健で看取りを導入できたのだと思います。
これからも、利用者さんだけではなく、介護職員がパワーアップできる環境も整えていってくれるのではないかと感じます。

いまの環境で「ものたりない」「もっと学びたい」と感じている方は、ぜひ老健で働くことも選択肢のひとつに加えてみてはいかがでしょうか。

辻よね子さんが施設長をつとめるデンマークイン新宿のHPはコチラ

※この取材記事の内容は、2018年10月に行った取材に基づき作成しています。

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