インタビュー

「自分でつくっていけるのが介護業界」施設長に聞く!施設介護の魅力とは

東京都文京区にある介護付き有料老人ホーム 杜の癒しハウス文京関口。
前回の記事では、杜の癒しハウス文京関口の取組を紹介しました。

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この記事では、圧倒的な地域密着を実現する杜の癒しハウス文京関口の施設長・柳沼亮一(やぎぬま りょういち)さんに、介護に対する思いや職員の収入アップを実現させた経営方法、採用基準など施設長としての考えをお伺いしました。

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2年間間ずっとイヤだった介護の仕事だが、実はすごい仕事だと思えた

___柳沼さんは、どれくらい施設長をされていますか?

柳沼亮一さん(以下、柳沼):私は、設立から施設長をしているので、今年で6年目を迎えます。
ちなみに、私の一番最初の仕事は「先生」なんですよ。病院でリハビリ助手として勤務し、作業療法士を目指しましたが転職をし学校の先生を経て、人材紹介と派遣を行う一般企業に営業として就職しました。その後、介護業界に入って、デイサービスの職員、デイサービスの主任、ショートステイの主任、施設のケアマネジャーとさまざまな役職を経験し、現在に至ります。

___先生から介護職員に転職するのは珍しいですね!

柳沼:そうですね。実は、特別養護老人ホームの事務員として入職したのですが、その施設が併設するデイサービスで人が足りなくなって介護職員に異動になりました。
「柳沼、明日からデイサービス行ってくれ」と言われて、次の日からホームヘルパー2級(現:初任者研修)を取得しに行きましたが、正直「なんで私が……」という思いもありました。
実際に現場で働いてみると、排泄のにおいに我慢できなかったり、認知症の方の対応がうまくできなかったりして、イライラが溜まっていきました。
もう、介護の仕事がイヤでイヤで、8時30分出勤なのに、8時29分ギリギリに来たり、誰かにやっかんだりしていました。
2年間ほどふてくされていましたね(笑)

そんな私だったけれど……デイサービスのある利用者さんが私のファンになってくれました。『やぎちゃん』と呼んでくれ『やぎ』と書かれたうちわを作って、私を応援してくれたのは、うれしかったですね。
ほかにも、あまり楽しそうでなかった利用者さんが、ある日から病気で来られなくなってしまいました。その後、たまたま病院で会ったときに「実は、デイサービスでの君とのやりとりが本当は楽しかったんだよ」と言ってもらえたんです。

そのとき「今まで、事務の仕事ばかりしてきたけれど、実は介護ってかなりすごい仕事だ」と分かったのです。
それが分かるまでに、2年以上の歳月を費やしましたが、それからは介護にハマってしまいました。
こんなに良い仕事なのに、なぜ給料が安いのか」「なぜ社会的地位が低いのか」などを考えるようになり、今では、介護業界の発展のためにいろいろと尽力したいと思って働いています。

新しい取組をしたい人は有料老人ホームへ

___他業界から介護業界に入ると戸惑うことも多そうですね。介護業界のなかでも、施設形態によっては、求められることが変化しそうです。

柳沼:たしかに、そうですね。たとえば、有料老人ホームと特別養護老人ホームでは仕事内容が多少変わります。
特別養護老人ホームの利用者さんは、ほとんど要介護度4~5です。要介護3の方も入所できますが、加算や待機者の関係上、少ないのが現状です。
要介護度が高いということは、疾患が多かったり、ADLが低かったりするので、身体介護をメインに行うことになります。日常生活を行うために多くの支援が必要な利用者さんが多いので、イベントや取組を多く取り入れたりするのはなかなか難しいかもしれません。
上記の特徴から、特別養護老人ホームは、排泄や入浴、食事といった身体介護を専門的に行いたい人、利用者さん本人からの直接の発信が少ないので、アセスメントをしっかりと覚え決められた支援を確実に提供できる人が向いていると思います。

一方、有料老人ホームの利用者さんには、歩いて出かける人もいれば、普通に会社に通勤している人もいます。なので、その日によって要望が変わることもあります。
実際、うちのホームの利用者さんで、夫婦で入居している60代の男性が仕事をしています。
ある日、入居の相談にきたその男性に「妻が若年性認知症で介護が必要だから、ぼくは仕事を辞めなければいけない。けれど、ぼくは仕事をしながら妻とも一緒にいたい。だから、ここに2人で入居させてほしい」と言われ、「なるほど!一緒に入所するという手もあるのか」と思いました。
一緒に入所すれば、入所させてしまったという罪悪感も感じず、仕事も辞めずに生活できます。介護が理由で今までできなかった出張や晩酌なんかもできるようになります。
そういった支援や介護保険に枠にとらわれない新しい取組を行えるのが、有料老人ホームです。

そのため、決まったことがつまらないと思う人や新しいことをしたい人は、うちのような取組をしている有料老人ホームが合っていると思います。

___施設ではなく訪問介護はどんな人が向いているでしょうか?

柳沼:着実にひとりひとりと全力で向き合いたい人は、訪問介護が向いていると思います。施設という環境は、多くの人から声を掛けられたり、途中で新たな仕事が降ってくるため、自分の思い通りに仕事ができないことも多々あります。中途半端が許せないような丁寧な人が施設で働くと、完璧なケアができないので、自分のことをできない人間だと思い込んでしまうようです。きちんと仕事をこなしたい人は、一対一で、時間も確保されている訪問介護がいいと思います。

このように施設によってさまざまな特徴があるので、自分の性格をきちんと見極めて、働く場所を選んだほうが、長く勤めることができると思います。

私は、採用面接も行っています。さまざまな方が面接を受けに来てくれますが、短い期間で転職をしている人に対しては、採用ハードルが上がります。もちろん、退職理由をしっかり聞いて採用の判断をしていますが、できれば、長く勤めたほうが印象がいいと思います。

常識にしばられず、しっかり介護を考える人と働きたい

___柳沼さんは、どのような人を採用したいと思いますか?

柳沼:私は「今日の非常識は明日の常識にしたい」という思いを持っています。
常識・非常識をきちんと理解し、見極められるけれど、常識にしばられない。非常識だと周りに言われたとしても自分が正解だと思うならやり通したい、そういう思いです。このような思いがあり、私とフィーリングが合う人を採用しています。

___フィーリングが合う人とは、具体的にどのような人でしょうか?

柳沼:施設の方向性と合うような、「誠実さ」「素直さ」「TPOに合わせた言動ができる」の3つの要素を兼ね備えている人のことです。
最初のハードルは「TPOに合わせた言動ができる」です。面接という場にふさわしい言動ができるかどうか、まずはそこを見ます。
次に、自分の言葉をストンと伝えられる「素直さ」と自制心があるような「誠実」な振る舞いができるかどうかを見ています。
そういう人であれば、私と一緒にこの施設を盛り上げていってくれるのではないかと思いますね。

そのため、「なんとなく介護」という思いの人は、うちには合わないと思います。私は「なんとなく・とりあえず」で介護をやっていないので、しっかりとした介護に関する考えがある人と仕事をしたいですね。

離職率は6%以下 人間関係も収入も良い職場

___誠実で意識の高い職員が多そうですね。辞める人は少ないのではないでしょうか。

柳沼:離職率は5~6%と、低い数字です。
退職する人は、結婚や出産といったライフイベントを理由とすることが多いですね。

介護業界の主な離職理由といえば、「人間関係」と「低賃金」があげられると思います。
「人間関係」でいえば、うちは私とフィーリングの合うという採用基準をクリアしている人たちの集まりなので、人間関係でのトラブルはそんなにありません。現に、離職率は低いですし、職員の仲は良いのではないでしょうか。

しかし、介護業界においては多くの人が人間関係を理由に辞めています。「介護=人間関係が悪い業界」というイメージがつきがちですが、私は、イコールではなく「人間関係が圧倒的に悪くなりやすい環境」なんだと思います。
なぜなら、介護は団体スポーツだからです。バレーボールのように誰かがレシーブしなければいけない、トスを上げなければいけない、それぞれの役割がありみんながアタッカーでは成り立たない仕事です。
みんながレクリエーションしたくてもダメだし、逆にレクリエーションをしたい人がいなくても誰かがしなければいけません。
それを理解せずに自分の主張ばかりすると、バランスが崩れて人間関係が悪くなります。
また、トスをしたことない人にトスをしてってお願いしても無理な話です。きちんと教えてあげる必要があります。
広い視野を持つことで、自分のすべき役割が見えてくるので、視野は大事ですね。それがわかれば自分次第で、職場環境も変えていけると思います。

「低賃金」に関しては、うちの施設は当てはまりません。10段階ほどある役職の4番目である主任の年収は、他の業界の同年代の平均年収より高いです。
うちで実現できているので、他の施設でも高収入を実現できると思います。

「コスト」「稼働率」「離職率」が改善できれば、介護職員の給料が上がる

___なぜ、他の施設では介護職員の給料をあげられないと思いますか?

柳沼:給料アップができない理由は、「コスト」「稼働率」「離職率」の3つの要素が絡んでいると思います。
「コスト」に関して、介護業界では「少しずつ買う」ということが少ない気がします。効果が大きく見えないと納得できないのかもしれません。
たとえば、自立支援をするとなったときに、必要なものを一気に買い揃えて「ADLがこんなに悪かった人がこんなに良くなりましたよ!」という大きな結果を求めがちになります。
そうではなく、小さな改善を少しずつ積み重ねて着実に成功することのほうが大事だと思います。だから、うちに導入している介護ロボットは1台ずつ。最低限のコストで導入して検証を繰り返して確実に成功させます。その分時間がかかるので、忍耐力が必要ですね。

___稼働率と離職率についてはいかがでしょうか?

柳沼:「稼働率」は、施設の評判(安心感)が大事だと思います。
うちの施設はお陰様で常に稼働率が95%程度を保っています。有料老人ホームではありますが、待機者が20名程います。なぜこんない稼働率が良いかというと、地域の口コミが大きいかもしれません。
地域貢献の取組を進めているため、地域の方と話す機会が多くなり、多くの方と顔見知りになります。その結果、「あそこの施設って・・・」と地域住民同士で会話になったときに、うちの施設のことを知っている地域の方が「あそこの施設の人なら知ってるよ!こんな人だよ!」などと話してくれます。身近な人から情報を得られるので安心感があるのだと思います。
普通は、老人ホームに入所していることを周りに公表しなかったりしますが、自分の施設が地域としっかり手を組んで地域を盛り上げていたら「実は、そこに入所しています」と言いやすいですよね。ご家族も「母が入っているんです」と言やすくなると思いますし、面会にも来やすい環境になると思います。ご家族から新規の入居希望者のご紹介を受けることも多いです。
利用者さんやご家族に対して、恥ずかしい思いや罪悪感を全く感じさせないのが、うちの施設です。

「離職率」はさきほど話した通り、低い数字となっています。介護職員ひとり採用するのに、100万円ほどのコストがかかるため、離職率が高くて、多くの人を採用する施設は必然的にお金がかかってしまいます。

この3つを改善できれば、介護職員の賃金も上がると思います。

___その3つ改善も含め施設運営には多くの苦労があったと思います。実際に施設長をやってみてどうですか?

柳沼:めちゃくちゃ楽しいです!
多くの権限を与えられているため、プレッシャーも大きいのですが、自分でつくっていけるというやりがいも大きいです。

▲「めちゃくちゃ楽しい」とその仕事の魅力を語る柳沼施設長

運営元の三幸福祉会には「日本の未来を明るく元気にする」というミッションがあります。我々施設長は、「明るく元気にするために、どうするか」を考えて実行することができます。
私の場合、「地域と同化する」ことがその答えでした。
施設長の立場をフルに活用して、これからも地域に貢献していきたいと思います。

知識を習得できる環境を整えたい

___施設長として、人材育成・キャリアアップに関してのお考えはありますか?

柳沼:私は、介護職員には「知識」が必要だと思っています。
そのため、今後社内で行う研修だけでなく、社内の試験制度をつくりたいと考えています。
試験合格が昇格条件ではなく、役職者が試験を受けることで知識を得て、自信につなげてもらうための制度です。
もし役職をもらったとしても、なんの知識もないままでは不安になりますよね。しかし、勉強は、機会がないとなかなかはかどらないものです。
そこで、しっかりとした知識を習得できる環境を整えてあげたいと思っています。

また、現在うちの法人には、ボーナスを決める「360度評価」というシステムがあります。職員全員が全員の点数つけて、その点数によって、ボーナスが決まります。一番少ない人で1回の支給金額は1.6か月分、多い人で2.5か月分と幅があります。
もちろん、私も職員から点数をつけられるので、360度評価の前になると「あ、どう?元気?」と愛想よくみんなに声をかけます(笑)。

___さいごに、介護職員のみなさんへ一言お願いします

柳沼:介護業界は、既存に縛られずに、新しいことができる業界だと思っています。
自分の常識がつくれたり、新たな取組ができます。
私自身、最初はイヤでしょうがなかった介護の世界ですが、あるときにその楽しさに気づき、続けてきた今では施設長となりました。
「出る杭は打たれる」ということわざがありますが、中途半端な思いでは、自分の想いは実現できません。打たれても突き出るくらいの強い思いでやると、自分なりの介護が実現できて、どんどん楽しめるようになると思います。

編集後記

柳沼さんは、東京未来大学福祉保育専門学校で介護福祉科の講師も務めています。当日も授業帰りで、施設業務の間をぬっての取材。
疲れた様子は微塵も見せずに、笑顔で介護への熱い思いを語る姿は、介護職員をまとめる施設長としての信念の現れのようでした。

講師を勤める専門学校の生徒には、介護の理想の部分だけでなく、介護現場の現実を踏まえて話をしているそうです。それは、介護業界を担う若者に対して、本気で介護業界で頑張っていってほしいという思いから。
自分の施設だけではなく、地域、学校、そしてこれからの介護業界にも貢献する、そんな広い広い視野を持つ施設長・柳沼さんでした。

次回は、杜の癒しハウス文京関口の介護主任にお伺いした、仕事内容や一日の流れなどをお届けする予定です。ぜひ、お楽しみに!

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