インタビュー

自分ペースのレクから「自分も相手も楽しめるレク」へ レクリエーション介護士に聞く、レクで大事なこと

レクリエーション介護士の資格をもった職員が多数在籍する、東京都北区志茂にある小規模型デイサービス(通所介護)『モーニングデイあさがお』。
前回の記事では、実際に行われたレクリエーションを紹介。モーニングデイあさがおのレクリエーションは、創意工夫にあふれたすばらしいものでした!

モーニングデイあさがおのレクリエーションのレポート記事はこちら

レク嫌いな利用者がデイ好きに!レク介護士が行うレクリエーションに密着取材〜モーニングデイあさがお〜東京都北区志茂にあるデイサービス(通所介護)『モーニングデイあさがお』にお伺いし、レクリエーションを見学してきました。 あさがおは20...

今回の記事では、あさがおでのレクリエーション終了後に、レクリエーション介護士であるあさがおの管理者・戸田昴志さんと職員の鈴木静子さんに、レクリエーションの誕生秘話や意識したこと、資格取得後のレクで変化したことなどをお伺いしました。
レクに悩む方へのアドバイスや明日のレクリエーションで活かせるポイントも多いので、現役介護士さん必見です!

脳トレと機能訓練を安全に楽しく行える「掛け算『トッター!』」

___レクリエーションとても盛り上がりましたね!本日のレクリエーションで行った、掛け算『トッター!』の概要と目的を教えてください。

鈴木静子さん(以下、鈴木):「 掛け算『トッター!』」とは、1~81までの数字が書いてある紙を机に並べ、スタッフが出した九九問題の答えの数字を取るゲームです。
「トッター!」と掛け声を言いながら紙を取ります。複数の人が同時で取った場合は、じゃんけんで決めます。一番多く「掛け算かるた」を取れた人が勝ちです。

掛け算『トッター!』は、脳トレと機能訓練を安全に楽しく行うことを目的としています。大きな声で『トッター!』と言って取るので、発声トレーニングにもなりますね。

戸田昴志さん(以下、戸田):イスに座って行うレクリエーションなので、転倒リスクは少なく、比較的安全ですね。
かるたは大きな机いっぱいに広げられています。遠くのかるたを取るときは手を思いっきり伸ばす必要があるので、良い運動になります。遠くの場所と近くの場所だと、使う腕の筋肉も変わってくるので、腕の筋肉を全体的に使用できる機能訓練となります。
腕の筋肉を動かすためだけに体操をしても、利用者さんはつまらないですよね。「いやだな、面倒くさいな」と思って、手を動かすかもしれまん。
けれどレクリエーションだと、楽しんで体を動かすことができ、結果的には体操の効果と変わりません
むしろ、マイナスな思いではなく、前向きに楽しんで体を動かすほうが効果はあるのではないでしょうか。

鈴木:「できない」「むずかしい」という思いからか、掛け算『トッター!』をやると言うと最初のころは「えー」と声をあげる利用者さんもいました。今では、みなさん集中して楽しんでいますね。

元経理の利用者さんのために。「掛け算『トッター!』」ができたきっかけ

___掛け算『トッター!』は、どうやって生まれたのですか?

戸田:認知症の症状がだんだんと強く出るようになってきた、ある利用者さんがいました。徐々にその利用者さんは自信を失っていき、何事にも意欲がなくなるように。そこで、その利用者さんがヒーローになれるレクリエーションをスタッフみんなで考えることにしたのです。
その利用者さんは昔経理の仕事をしていたので、「計算に強いのではないか」と思い、簡単な計算問題をやってもらいました。すると、すごく計算が早かったんです。
苦手なことをやるのではなく、得意なことで勝負できたらいいのではと考えて、みんなで試行錯誤した結果「掛け算『トッター!』」が生まれました。
レクリエーション介護士で学んだ「アセスメント・ヒアリングの重要性」を現場で活かすことで、「元経理」というワードを聞き逃さず、そこから計算に強いという長所を発見できたので、このレクリエーションができたのだと思います。

 

___素敵な誕生秘話ですね!元経理の利用者さんは、レクリエーションをやってみてヒーローになれましたか?

戸田:ヒーローになれました!
実際にレクリエーションをやってもらったところ、取るのがすごく早くて、スタッフが本気でやっても負けてしまいます(笑)。
その方は、他のレク等には意欲的ではありませんが、掛け算『トッター!』は前のめりで参加してくれますね。得意分野で負けたくないと思うのか、目つきが変わります。
意欲のない利用者さんのやる気を少しでも取り戻せたという点でも、効果を感じますね。

さらに、ルールをきちんと把握して最初から最後まで参加できるのがすごいと思いました。認知症の症状で短期記憶が覚えられない方なのに、掛け算『トッター!』のルールは頭に入っていて、『トッター!』と言いながら取ります。
スタッフの名前も覚えていなかったのに、一緒に参加したスタッフの名前を覚えてくれるように。楽しい時間を共有することによって印象が強くなったのか、レクリエーションの脳トレの効果かはわかりませんが、結果として、名前を呼んでくれるようになったのです。
あさがおのレクリエーションに参加することによって、利用者さんに大きな効果が現れる……こんなにうれしいことはないですね。

 

___素晴らしい効果!掛け算『トッター!』は、ほかの利用者さんにも人気のレクなのですよね?

戸田:はい。生まれたきっかけはひとりの利用者さんですが、利用者のみなさんに人気があります。
あさがおでは、レクリエーション等への参加に対して強い促しはしませんが、掛け算『トッター!』は自然とみなさん集まってくれます。入浴等で途中からとなっても、ほとんどの方が参加してくれます。
ルールが単純明快でわかりやすく、個人戦なので、最初からでも途中からでも参加しやすいのかもしれません。
掛け算『トッター!』は回数を重ねるごとに、だんだんと利用者さん同士のつながりが強くなっていくのも伺えました。
最初は、スタッフ対利用者さん一人ひとりといった雰囲気でしたが、次第に利用者さん同士で「あそこにあるよ」と教え合うように。
今では、個人として参加しているけれど、あさがおチームとして、利用者さん一人ひとりができることをサポートし合いながら参加してくれています。

このような雰囲気が生まれるとは思っていなかったので、本当にやってよかったです。

最初のハードルは下げて、徐々に難易度をあげていく

___実際のレクリエーション中に、なにか意識していたことはありますか?

鈴木:掛け算『トッター!』では、最初は問題のハードルを下げて、徐々に言い方を変えたり、ひっかけのような変化を加えたりして難しくなるように意識しました。
問題のハードルを下げるとは、「さんにが?」や「ろくし?」といったように、九九の言い方で問題を読むことです。九九の読み方のほうがすぐに答えが頭に思い浮かびますよね。そのため、難易度は下がります。
中盤では問題の読み方を変えて「はちかけるろく」「ごかけるに」というように、普通に読みました。すると、利用者さんは自分の頭の中で「はちろく」「ごに」と、変換するため、頭の中の作業がワンステップ増えます。
さらに、「いちかけるさん」といった簡単な問題の前に「次の問題はとーても難しいですよ!」などのひっかけの声掛けをして、心理戦にします。ただ「ぼー」と参加されるよりも「難しいと言ったのに、難しくないじゃん」と、何かしら思ってもらえるように刺激変化を意識しています。

人前での主張が苦手な人の活躍の場に

___掛け算『トッター!』の「脳トレと機能訓練を安全に楽しく行う」という目的は達成できたと思いますか?

鈴木:達成できたと思います。
今日は取材が入っていたので、みなさん少し緊張気味ではありましたが、楽しく安全に脳トレと機能訓練ができました。
実は、掛け算『トッター!』には、「人前で主張をする」という目的も兼ねています。高齢者の方のなかには、人前で何かアピールすることが苦手な人も多いです。人前でのアピールが苦手な人は、いつも目立たずに過ごすことになります。けれど、利用者さん一人ひとり活躍できる場があっていいと思うのです。一人ひとりが活躍するためには、人前でアピールできるようになる必要があります。そういう意味で、大きな声で『トッター!』と言いながら手を伸ばす「掛け算『トッター!』」は、良いトレーニングになります。
今日一番多くかるたを取っていた利用者さんは、人前で主張したり注目されることが苦手な方でした。けれど、掛け算『トッター!』をするうちに徐々に変わっていき、今では大きな声で『トッター!』と言いながら、一番多くかるたを取るようになりました。その利用者さんの活躍の場を提供できて、うれしいですね。

 

___利用者さんの意欲やモチベーションが高いのは、スタッフの方の取り組みにも秘密がありそうですね。

鈴木:そうですね。実は、かるたの数字は利用者さんに書いてもらいました。「このかるた、一緒に作ってくれましたよね」と言うと、レクの参加率が高まります。準備に協力してもらうことで参加率が高まるとわかっているので、準備の段階から利用者さんに協力してもらいます。
そういった事前のスタッフの努力も効果を示していますね。
本番のレクリエーションでは、スタッフも参加します。スタッフが参加することによって「みなさんが参加するんだったら……」と参加してくれる利用者さんもいます。
スタッフの真剣な雰囲気が利用者さんに伝染するのか、みなさん集中してレクに参加してくれますね。
レクリエーションの進行をする側としては、本気で参加するスタッフの存在に助けられています。レクリエーションが盛り上がらないと、進行側としては非常にやりづらいですから、スタッフのチームワークや協調性はとてもありがたいです。

自分ペースのレクから相手の気持ちに寄り添ったレクへ

___掛け算『トッター!』は、レクリエーション介護士ならではの創意工夫にあふれたレクでした。どうしてレクリエーション介護士を取得しようと思ったのですか?

戸田:身近にいるレクリエーション介護士取得者の姿を見て、取得したいと思いました。その人の声掛けの仕方や利用者さんの話の聞き方などが論理的で、魅力に感じましたね。
資格を取得するまでの私のレクリエーションは、特に意味も持たずにオーバーなリアクションなどで笑いを取れればいいと思って、その場しのぎのレクを行っていました。
しかし、意味や目的のある言動をするレク介護士の姿を見て、レクリエーションを突き詰めたいと思うようになりました。
実際に取得した後は、アンテナの張り方や気遣い・目線の向け方などが変わりました。利用者さんの声をひろうアプローチのひとつとしても、レクリエーション介護士は役立つと思います。

 

___資格取得後、自分の行うレクリエーションに変化はありましたか?

戸田:デイサービスが嫌いな人に、個別レクリエーションでアプローチができるようになりました。
仕事を引退後、自宅に引きこもっている高齢者の方がいました。その方は周囲にデイをすすめらていましたが、デイ嫌いなので、拒否をしつづけていたのです。
モノづくりを得意とする方でしたので、モノづくりの個別レクを提案すると、デイサービスに参加するようになりました。将棋をつくるレクを行っている期間中は、将棋の本を買って家で勉強していると話してくれました。
あさがおに来ることによって、あさがお以外の自宅の過ごし方に変化が起きたのです。
デイサービスの目指すゴールは、在宅生活の継続だと思っているので、そのお手伝いが少しはできているのかなと感じます。


鈴木:取得する前は、パソコンで調べた内容をそのままレクリエーションに使っていましたが、取得後は自分なりのアレンジを加えるようになりました。
たとえば、魚編の漢字を思いつく限り言ってもらうレク。ただ言うだけだとつまらないじゃないですか。答えてもらった魚に対して「どう調理しますか?」「旬はいつですか?」などの関連する質問をします。そうすることで、その魚を食べたり調理したりした記憶がよみがえって、より印象に残りますよね。一歩踏み込んだ脳トレになります。

「なんのレクをするか」しか考えていなかった私が、「自分も利用者さんも楽しく」を意識することによって、どんどん自分なりのアレンジを思いつけるように変わっていき、レクリエーションが楽しくなりました。

 

___レクに対する自分の意識が変わったのですね。

鈴木:そうですね。いままでは、自分のペースで「やりましょう」と声掛けをしていましたが、利用者さんの気持ちにより沿って声掛けやアプローチが行えるようになりました。
たとえば、一緒に準備してもらうと参加率が上がる利用者さんには、準備の段階から参加してもらいます。いきなりレクリエーションをはじめると嫌がる人もいるので、最初に「昨日はどこに行きましたか?」「何を食べましたか?」と関係ない話から入って、だんだんとレクリエーションにつなげていき、気持ちを徐々にこちらへと向けてもらうこともします。
たまに「このレクリエーションは昨日夜な夜な考えたんですよ!」とユーモアを交えたりすると、雰囲気が和やかになるので、参加しやすい空気を作れます。

参加者によって予定していたレクを変更することもあります。
当日のデイサービスのキャンセルやレクに参加する・しないで、参加者が予定と変わることってありますよね。
たとえば、視力が弱い利用者さんが急に参加することになったら、予定していたトランプやカード系のレクリエーションは使用しない、などの臨機応変な対応をします。

レクをやらなきゃ!この時間をどうにか過ごさなきゃ!」といったマイナスの気持ちから、「どうしたら利用者さんが楽しめるか」というプラスの意識になれたことは、自分にとって大きなメリットです。
今後も介護のお仕事をやるうえで、必要なスキルを得られたと思います。
苦しい時間が楽しみに変わるなんて、とてもうれしいことですよ。

レクはとりあえずやってみて、PDCAを回すのが「あさがお流」

___あさがおでは、スタッフが生き生きと活躍していますね。

戸田:スタッフみんなが主体となって動いてくれているので助かっています。
レクリエーションも、基本的にスタッフが考えてくれます。スタッフが新しいレクを提案してくれたときは、みんなでリスクを考えて、そのリスクを回避できるなら「やってみよう!」となります。
とりあえず、やってみないとわからないですよね。レクをやってみて、「みんなで頑張って盛り上げたけど、なんか違ったね」となったら、次やらなければいいだけです。
改善点を考えられるのであれば、改善します。それを考える余地もないほどまったく手ごたえのないレクであれば、2度とやらないで、みんなの記憶から消せばいいのです(笑)。
スタッフの主体性を大事にして、はじめから無理だと思わずにとりあえずやってみてPDCAを回す、これがあさがお流ですね。

レクも介護も大変だからこそ、みんなでつながって助け合いましょう!

___さいごに、同じ介護職員の方々にメッセージをお願いします。

鈴木:レクリエーションが苦手な人は、最初のつかみを意識するといいと思います。最初のアイスブレイクのトークで、自分の話をするのがポイントです。「昨日ここに行ったんですよ」などの自分の話は具体的に話せるので、利用者さんも想像しやすくて聞きやすいと思います。話していると「私も行ったことがあるわ」「私はここに行った」など、利用者さんが話に乗ってくれることもありますので、盛り上がりますね。
鉄板ネタは、「孫の話」です。孫の話をするとだいたい雰囲気が良くなります。「こういうときはどうしたらいいですか?」と人生の大先輩に尋ねる姿勢を取ると、だんだんと心をつかめます。

レクリエーションは考えるのも進行するのも、とても大変です。
けれど、自分も一緒に楽しめて、なにかしら利用者さんに効果が現れていくと、次第に喜びになります。そこをモチベーションにして、がんばっていけたらいいのかなと思います。

戸田:介護は大変なことも多いと思います。
けれど、職場には思いを同じくするスタッフがいるので、ひとりじゃありません。みんなが連携すれば、今よりももっと利用者さんが喜んでくれるサービスを提供できたり、自分たちの職場環境が良くなったりすると思います。
その手段のひとつとして、レクリエーション介護士があります。
レクリエーション介護士で学ぶ内容も良い影響がありますが、通学講座で他の施設・事業所の職員と関われることも大きなメリットになります。
いろんな人と交流することで、自分の上司には話せないことを話せたり、外からの意見で新たな発見があったりします。今はもう自分だけが勝てばいいという時代ではないので、横のつながりは大事にしたいですよね。

レクも介護も苦痛なものではなく、本来なら楽しく行えるものです。
だれかつらい思いをしているなら、みんなで助け合えたらいいなと思います。
介護職員はみんなでつながっていきましょう!

※この取材記事の内容は、2018年7月に行った取材に基づき作成しています。

レクリエーション介護士 藤井さんのインタビュー記事はこちら

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