介護コラム

あなたは介護の仕事から、何を学んでいますか?

先日、介護職を退職しようとした人にお話をさせていただく機会がありました。
その時に、介護職になったことで何を学んでいるか、何を気付いているのかを紙に書いてもらいました。
それから介護を通じて教えてもらっていることが明確になり、仕事上のモチベ―ジョンになっている、と彼女は言っていました。

私達は起きる出来事に対して、受けている感情は認識できますが、気付かされていること・与えてもらっていることには、なかなか気付けません。

そこで今回は、「介護での学び」を取り上げたいと思います。
私達が知らず知らずに学んでいることをもう一度認識し、自分の生き方の糧にしてほしいと思います。

自分の本当に求める人生を考えさせてもらっている?

介護を通じて私達が学んでいることの1つは、自分の人生の最後がどういった姿で終わりたいのか、を考えさせてもらっていることではないでしょうか。
介護業界は、ご利用者様と家族に両方に関わることができ、なおかつ本当の幸せとは何か、という点を非常に考えさせられます。

その中で、特に考えさせられたことを挙げてみたいと思います。

人間の本当の魅力

燃え尽き症候群
ある女性ご利用者様は、決して金銭的に恵まれているとは言えませんでした。
しかし私達職員に対していつも笑顔を絶やさず、レクリエーションも積極的にこなし、施設での生活を楽しまれていました。
最期は、亡くなる2時間前に自分でトイレに行けるほど元気でしたが、心筋梗塞で亡くなりました。
亡くなった時の姿はまるで眠っているようで、施設の職員も、悲しみでいっぱいでした。

一方、別のある女性ご利用者様は、アパートを経営していたこともあり、金銭的に裕福でした。
しかし施設での生活には常にこだわりがあり、職員が彼女の話を切り上げようとすると「逃げるの?」と言って職員を留まらせようとするのです。
また入浴の時間帯も午後じゃないと納得せず、担当する職員も彼女が「この人じゃないとダメ」と決めているのです。
彼女からは「私だけを見て欲しい」そんな思いが聞こえてくるようでした。

最初のご利用者様のご家族は私たちに対し、「本当にありがとうございました」と心を込めて言ってくれて、私達も「介護して良かった」と思いました。
しかし金銭的に恵まれているご利用様の方は、どの職員も「このようになりたくない」と思ってしまい、関わり合うのを避ける職員さえいました。

この出来事から私は、金銭的に恵まれているからと言って幸せが保証されているわけではなく、心の持ち方次第で周りの人を豊かにし、幸せな最後を迎えることが出来ると学びました。

介護という仕事は男女問わず色々な年齢層の方がいて、「人間の本当の魅力」を学ぶのに最適です。
トータルの人生を学ばせてもらうのに大変勉強になる職場だと、私は考えています。

相手に合わせる能力

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魅力のあるご利用者様や介護職員の特徴の1つが、この「相手に合わせる能力」です。
話し相手や周りの人が失礼な言動をしても、それを咎めるようなことはしませんし、和を乱してまで自分のこだわりを主張することもしません。

魅力的なご利用者の場合、他のご利用者が騒いだり、職員に迷惑をかけているのを見てもじっとしていたり、切りが良い所で「もう止めれば」と場を戻そうとします。
魅力的な介護職員の場合、他の職員のミスで自分の仕事が増えてしまっても、その人を責めるようなことはしません。

チームプレーの場である介護現場で、こういう人が1人いるだけで、他のご利用者様、介護職員は安心して過ごすことが出来ます。

許すこと

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介護職員なら理解していただけると思うのですが、介護をしている現場でご利用者様や、他の介護職員に対して、怒りや、腹が立つことがたびたびあります。
自分が報告したことがあまり重要視されなかったり、他人の失敗を自分のせいにされたり、言うことを聞いてくれなかったり……。
「許す」ということが出来ないのです。
この感情は自分自身を傷つけてしまう、とても恐ろしいものです。
感情の過大なブレから、自らの体調もおかしくしてしまいます。

介護という仕事はチームプレーであるため、どうしても、他人を「許す」という作業が求められますが、それがスムーズにデキる人は、魅力のある人と言えるでしょう。

発する言葉が美しい

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魅力ある人は発する言葉が美しくて優しいため、その言葉で人が癒やされます。
それだけでなく、その場その場で、的確な言葉が出てきます。

その人と話をすると元気ややる気が出る、そんなご利用者様や上司、同僚はいませんか?

優しい声掛け

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真摯に介護に向き合っている人は、優しい「声掛け」が自然と身についていることがわかるでしょう。

「どうしましましたか?」「ちょっと待っててくださいね」
このような声掛けは、日常生活ではあまりしませんが、介護現場では必須です。
そして介護職員はどんな時でも、相手の望むことを素早く察し、それに応えなくてはなりません。

魅力のある人は、どんな状況の声掛けのトーンや口調でも、内面の優しさがにじみ出ていて、なお一層の魅力を持った人物として、その人の魅力を引き立たせるのです。
これを身に付けるのは容易ではありませんが、そのような声掛けを行っている人に意識していることなどを聞いてみるのがいいと思います。

他人を許せる自分になる

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もしあなたが介護現場で勉強させてもらっていることを意識していき、矛盾と闘いながらも笑顔でやるべきことに集中したら、どんなことが起こるでしょう?

「在宅での介護」を目指している国の方針ですが、ご利用者様にはそれを望まれないご家族が沢山いらっしゃいます。
このような家族の場合、面会に来ることは少なく、一時帰宅の回数も少ないのです。
家族が一緒にいることを拒むような、介護職員の手を煩わせるご利用者様であることが多いのです。
(この時点で、他の職員はこのご利用者様を利用停止にしよう、ということでしょう)

しかしこのような中で、ご家族の介護に対する考えの矛盾や、職員の考えと管理者の考えの矛盾などを許せるようになると、他人の間違いや過ちを許せる自分がいることに気付きます。
そうしたときに、いつの間にか、あなたが自分自身を好きになっていることに気付くでしょう。

問題だらけの老若男女が入り混じっている介護現場では、物質面だけでなく、精神的な強さや、人に対する優しさを実体験で学べます。
「あの人のこの言い方が許せない」「あの人の介護は違う」
他人を許せない自分を感じて、許せる自分になっていくのです。

ABOUT ME
坂本晋二
青山学院大学を卒業後、水商売の世界へ。140人のコンパニオンと3店舗のシフト管理や求人を行う人材開発部長として活躍。その後、独立してエステ店の経営を行った後に、介護業界に関わる。デイサービス管理者を経験し、介護従事者の物心両面の充実が、ご利用者様へのサービスの向上には最も必要と考え、自ら主催する勉強会において「日常生活に役立つワーク」を、そして、個人カウンセリングを、介護者や経営者に行っている。