介護の知識

介護職のための完全拘縮ケアマニュアル⑥「シーン別の拘縮ケア~更衣介助・オムツ交換・移乗介助で役立つ知識」

これまで、拘縮ケアの正しい知識、正しい関節の動かし方、正しいポジショニング・座位の姿勢のスキルを学んできました。

拘縮ケアに限らず、大切なのは「正しい知識とスキル」。
まずは拘縮の原因となる「抗重力筋」に考慮した、利用者にとって楽な姿勢・動きを知ること。そのうえで、知識を活かしたスキルを実践すると、筋肉の緊張が緩和して拘縮が改善していきます。

さて、『介護職のための完全拘縮ケアマニュアル』最終回では、日ごろ困りがちな「更衣介助」「オムツ交換」「道具を使った移乗介助」の3つシーンで役立つ拘縮ケアの知識・スキルを紹介します。ぜひ、拘縮ケアの集大成として参考にしてください!

解説するのは、「介護に役立つ! 写真でわかる拘縮ケア」の監修を務め、全国の研修会や講習会で講師も行っている理学療法士・田中義行先生です。

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【解説者プロフィール】
田中義行先生

株式会社大起エンゼルヘルプ
理学療法士 田中義行先生

上川病院勤務、江戸川医療専門学校(現東京リハビリテーション専門学校)講師、介護老人保健施設 港南あおぞら勤務を経て、現職に至る。
認知症患者の身体拘束廃止活動を原点とし、現在は、障害者の身体構造・生理にかなった介護法や拘縮を防ぐ介護技術を全国の研修会・講演会で伝え、現場での指導に力を入れている。
著書・監修書に『潜在力を引き出す介助 あなたの介護を劇的に変える新しい技術』(中法法規出版)、『これから介護を始める人が知っておきたい介助術』(日本実業出版社)、『オールカラー 介護に役立つ! 写真でわかる拘縮ケア』(ナツメ社)、『オールカラー 写真でわかる移乗・移動ケア』(ナツメ社)、『写真で学ぶ 拘縮予防・改善のための介護』(中央法規出版)などがある。

負担を減らす、シーン別の介助方法

わきやひじ、ひざなど身体が拘縮したままでは思うように介助ができず、難しさを感じることが多いと思います。
拘縮したまま無理に介助されるのは、利用者にとっても苦痛。

まずは、介護職のための完全拘縮ケアマニュアル③④で解説したポジショニングを行い、日ごろから拘縮をゆるめることが大切です。

さらに、筋肉を緊張させない負担の少ない介助スキルも活用することで、利用者・介護者の負担はより減っていきます。

そこで最終回では、拘縮ケアの観点から「更衣介助」「オムツ交換」「道具を使った移乗介助」で役立つ知識・スキルを解説します!

田中先生
田中先生
よく介護職の方から「『痛くても無理に動かしたほうがリハビリになるから』と利用者ご家族に言われたときに、うまく説明できないんです……」と相談を受けます。

ずっとお伝えしてきたように、拘縮のある人を無理に動かすのは逆効果。痛みのない範囲で動かすことが正解です。
これで、今日からは返答に迷う必要はありません。解説しているように「無理に動かすのはよくない」とハッキリとお伝えください。

更衣介助で役立つ!拘縮ケアの知識

更衣介助で難しいと感じる理由は、拘縮したうでが動きづらいからではないでしょうか。

拘縮の利用者の更衣介助をスムーズに行うポイントは、下記の3つ。

  • 前開きなどの着替えやすい服を選ぶ
  • 車いすの背もたれを折りたたむ
  • 服の袖は肩まで通さない

それでは、それぞれのポイントを確認しましょう。

前開きなどの着替えやすい服を選ぶ

ひとつめのポイントは、前開きなどの着替えやすい服を選ぶこと
みなさんすでにご存知のとおり、前開きやストレッチ素材などの介助しやすい服を選ぶことは更衣介助の大前提です。

なぜなら、かぶり式の服は肩を90度近く動かさなければ着られません。
対して前開きの服は、20~30度の可動域で着ることができます。

関節が固まっている拘縮の利用者にかぶり式の服を着せるのは、非常に困難。
キーパーソンや家族などにも説明し、前開きなどの着替えやすい服を用意してもらいましょう。

車いすの背もたれを折りたたむ

ふたつめのポイントは、車いすの背もたれ(バックサポート)を折りたたむこと

車いすで更衣介助をするときは、背もたれが折りたためる車いすであれば折りたたみましょう。
背もたれが短くなることで摩擦が起きる面積が減り、楽に介助できます

田中先生
田中先生
割と車いすの背もたれ折りたたみ機能を活用していない人が多いのですが、もったいないです……!
今よりも介助がグッと楽になると思うので、ぜひ試してみてください。

服の袖は肩まで通さない

みっつめのポイントは、服の袖は肩まで通さないこと

片方の袖を肩まで通すと、もう片方のうでを上に向けないと袖が通りません。

拘縮のある人の場合、関節が固まって動かなかったり可動域が狭かったりするので、無理やり動かすことになります。
無理に動かすと痛みを与えるため、筋肉が緊張して拘縮悪化や骨折などのケガにつながります
痛みを与えれば、顔がゆがんだり筋肉に抵抗感がでてきたりします。これらの特徴を感じたらすぐに動きを止め、様子を見ましょう。

危険だと思ったら、決して無理には行わずリハビリ職などに相談してください。

田中先生
田中先生
拘縮で関節や筋肉が硬くなっているといっても、骨も硬いわけではありません
一般的に、高齢者の骨や皮膚は弱くなっています。
拘縮の利用者さんに対しても、骨折や内出血などのケガをさせないよう、十分に注意しましょう。

更衣介助の正しい手順

それでは、利用者・介護者にとって負担の少ない更衣介助の手順を紹介します。

拘縮したうでを動かすときは、『介護職のための完全拘縮ケアマニュアル』第2回で紹介した、「関節の動かし方(わきが開く方法)」を参考にしてください。

介護職のための完全拘縮ケアマニュアル②「関節の動かし方~わき、指、ひざがラクに開くとっておきの方法」『介護職のための完全拘縮ケアマニュアル』第1回では、「正しい姿勢・ポジショニング」の重要性を解説しました。 その「正しい姿勢・ポジショ...

はじめに着替えやすい前開きの服を用意し、車いすの背もたれを折りたたみます。

更衣介助の原則である「脱健着患(だっけんちゃっかん)」に基づき、服を着せるときは患側から。服の袖をもって、患側の二のうであたりまで通します。

健側のうでの下まで袖の入口をもっていき、下から袖を通します。

肩のところまで上げ、衣類を整えて完了です。

田中先生
田中先生
脱がすときは、逆の手順を行えばOK。
まずは患側の肩を脱がしてから、健側→患側の順で袖を抜くと楽に介助できます。

両うでが拘縮している場合は、拘縮の弱い側から先に脱ぎ、拘縮の強い側から先に着せましょう。先に逆の肩を脱がせるのは同じです。

オムツ交換で役立つ!拘縮ケアの知識

オムツ交換ではポイントがふたつあります。
ひとつめは、「前かがみで介助をしない」こと。
介護者の姿勢については、拘縮の有無にかかわらず腰痛予防の観点で気をつけてほしいポイントです。

ふたつめは「体位変換はきれいな90度の横向きにする」こと。
うでやわきが拘縮していると、横向きにしたときに下側のうでが邪魔して90度の横向きになれません。
中途半端な角度の横向きで介助をすると、途中で倒れてきたり、利用者を支えるために介護者が無理な姿勢になったりします。
スムーズな介助を行うには、きれいな横向きにする技術はとても重要です。

それでは、それぞれのポイントを確認しましょう。

前かがみで介助をしない

移乗介助の記事で紹介したように、介護者の負担を減らすことも大切な介助のポイント。

「前かがみ」で介助・作業を行うと、腰への負担が大きくなります
そこで、オムツ交換時も前かがみにならないように気をつけましょう。

気をつける点は、体位変換で横になる方向
利用者が横になる向きによって、介護者の腰への負担は大きく異なります。

オムツ交換では、自分側に向けて介助をするのはNG
試してもらうとよくわかりますが、利用者を自分側に向けると前かがみの姿勢で介助をしなければなりません
腰痛の原因となるので、要注意です!

自分と反対側へ向けて介助をすると、背筋を伸ばしたまま介助ができるので腰への負担は減ります

腰への負担が大きいまま介助を行うと、同じ介助でもよりつらく感じると思います。介護者への負担が大きくなる「全介助」や「拘縮」といった要素は変えられませんが、「自分の姿勢」はすぐに変えることができます

まずは「前かがみにならない姿勢」を意識して、負担を軽減してみてください。

田中先生
田中先生
腰痛予防のためにベッドの高さを調節するのは有名ですが、調節しても「前かがみ」で介助をすれば、腰に大きな負担がかかります

「ベッドの高さをきちんと調節していたのに腰痛になった……」という人は、きっと介助中に「前かがみの姿勢」になっていると思います。
介助中はもちろん日ごろから姿勢を意識して、腰痛を予防しましょう!

体位変換はきれいな90度の横向きにする

拘縮の利用者のオムツ交換で難しく感じる理由は、「介助中に身体が倒れてきて、やり直しに」なったり「倒れてこないように、無理な体勢で支えながら介助」をしたりする必要があるからではないでしょうか。

これらの原因は、体位変換時に「きれいな90度の横向きになっていないこと」。
きれいな横向きにしないまま介助をすれば、介護者の負担はとても大きくなります。

とはいえ、拘縮の利用者をきれいな90度の横向きするのは難しいですよね。
それは、ひじやわきの関節が固まっているため、横向きにしたときに下側のうでがストッパーになるから。
つまり、うでを動かすことができれば解決するのです。

そこで、『介護職のための完全拘縮ケアマニュアル』第2回で紹介した関節の動かし方(わきが開く方法)」を活用した体位変換を使って介助しましょう。

きれいな90度の横向きにする手順

まずは、身体を小さくまとめるため、上側のうでを動かす必要があります。
関節の動かし方を活用しながら、上側になるうでのひじをななめ前方へ動かします。しまっていたわきが動くようになるので、上側のうでを胸の上におきます。

通常の体位変換の方法は、下記の記事の『起き上がり介助の前に!体位変換の方法』を参考にしてください。

プロが教える起き上がりの介助技術
利用者も介護者も無理せずスムーズに!「起き上がり介助」のポイントを理学療法士が解説ベッドから移乗する前に必ず行う「起き上がり介助」。 寝ている人を起こすので、大きな負担がかかると思っている人も多いのではないでしょうか...
田中先生
田中先生
体位変換をするときは、ボディメカニクスの原理で身体を小さくまとめると介助しやすくなります
しまっているわきを動かし、身体の面積を小さくして介助しましょう。

先にひざを倒して、肩が倒れるのをサポートします。

利用者の肩を支えながら、ストッパーになっている下側のひじをななめ前へゆっくり動かします

ストッパーとなっていたうでが動き、きれいな90度の横向き(側臥位)にできます。

田中先生
田中先生
拘縮でわきがしまっていても、内側ななめ前方には動きます

オムツ交換で役立つ+α知識

拘縮の利用者のオムツ交換では、ひざが開かなくて苦戦することも多いと思います。
固まったひざを開く方法は、『介護職のための完全拘縮ケアマニュアル』第2回で紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

田中先生
田中先生
ひざが開かないからといって無理にこじ開けたり、足を引っ張ったりするのはNG行為!

拘縮が進んでしまうので、絶対にやめましょう。

道具を使った移乗介助で役立つ!拘縮ケアの知識

全身拘縮の利用者の移乗介助は、筋肉や関節が動きづらいまま抱えるので難易度が高くなります
介助時に転倒させてしまったり、無理な離床で痛みを与えるような介助を行ってしまうと、拘縮を悪化させてしまったりするおそれもあり、不安な人も多いでしょう。
そこで、ひとりで移乗介助を行うときはできるだけ福祉用具を使用して負担を減らしましょう。

おすすめの道具は「スライディングシート」です。

それでは、スライディングシートを使った移乗介助の方法を解説しましょう。

田中先生
田中先生
道具を使っても、あまり楽にならないと感じている人もいるのではないでしょうか。

その原因も「前かがみの姿勢」にあります。
道具を使っても「前かがみ」のまま介助をすると腰への負担は大きく、道具のメリットを感じづらくなるのです。
床にひざを付いたり、足を大きく開いたりして前かがみにならないように気をつけましょう。

スライディングシートを使った移乗介助の手順

スライディングシートを使ったベッドから車いすへの移乗介助の方法を紹介します。

1.車いす・ベッドの準備

はじめに、車いすやベッドの準備をします。
車いすはフットサポートを外し、ベッド側のアームサポートは上げておきましょう。
ベッドの高さは車いすの座面より高くなるように調整し、車いすをベッドに寄せます。

田中先生
田中先生
ベッドから車いすへ移乗するとき、思ったよりもおしりはマットレスに沈んでいます。そのため、ベッドと車いすの座面の高さの差は大きいほうがスムーズにいきやすいでしょう。

逆に車いすからベッドへ移乗するときは、少しの差で大丈夫です。

2.ベッドと車いすのすき間を埋める

スライディングシートの落ち込み防止用に、ベッドと車いすの間に丸めたタオル等を入れ、すき間を埋めましょう。

3.起き上がり介助をし、端座位にする

起き上がり介助をし、利用者を端座位(たんざい)にします。
半分に折ったスライディングシートを、車いす側のベッドの上に置きます。
介護者は、前かがみにならないように気をつけましょう

起き上がり介助の方法は、下記の記事を参考にしてください。

プロが教える起き上がりの介助技術
利用者も介護者も無理せずスムーズに!「起き上がり介助」のポイントを理学療法士が解説ベッドから移乗する前に必ず行う「起き上がり介助」。 寝ている人を起こすので、大きな負担がかかると思っている人も多いのではないでしょうか...

4.利用者を支えながら、シートをすべり込ませる

利用者の肩・肩甲骨と腰に手を添え、上体をシートと逆側に傾けます

片手で利用者を支えたまま、もう片方の手でシートを利用者のおしりの下にすべり込ませます。

5.関節の動かし方を活用し、肩幅を小さくする

移乗しやすいように、関節の動かし方を活用して利用者の肩幅を小さくします。
背中とひじに手を当て、ひじをななめ内側へゆっくりと動かします。もう片方のひじも同様に動かしましょう。
筋肉の緊張がゆるんでわきやひじの関節が動くようになるので、肩幅を小さくできます。

関節の動かし方の詳細は下記を参考にしてください。

介護職のための完全拘縮ケアマニュアル②「関節の動かし方~わき、指、ひざがラクに開くとっておきの方法」『介護職のための完全拘縮ケアマニュアル』第1回では、「正しい姿勢・ポジショニング」の重要性を解説しました。 その「正しい姿勢・ポジショ...

6.摩擦抵抗を減らすために、上体をシート側に傾ける

車いす側のわきに手を入れ、もう片方の手を腰に添えます。
シート上でスムーズにすべるように、上体をシート側へ傾けます。

田中先生
田中先生
この時点でシートが入っているのは、おそらくおしりの半分以下の面積。
シートが入ってない部分には摩擦が生じます
せっかくシートを使ってもち上げない介助を試みてもうまくいかない場合は、この摩擦が影響しているため。
上体をシート側へ傾けて、摩擦が起きているほうのおしりを浮かすとすべりやすくなります。

7.シートごとすべらせて移乗する

そのまま、スライディングシートごと車いすへすべらせます。

8.シートを抜きとり、姿勢を整える

シートと逆側に上体を傾け、おしりを浮かしてスライディングシートを抜きとります。

姿勢を整え、アームサポートやフットサポートを戻したら完了です。

拘縮の利用者には福祉用具がよく使われる

拘縮の利用者の介助では、福祉用具を使用する場合も多いと思います。
移乗介助でよく使用される道具は「スライディングシート」と「スライディングボード」のふたつ。

道具にはそれぞれ特徴があります。
道具の特徴を知って、適した場面で使用しましょう。

スライディングシートの特徴

スライディングシートのメリットは利用者のおしりへの負担が少ないこと。
ボードに比べ、布製のシートは身体にフィットします。エアーマットや低反発クッションに対しても柔軟に対応できるので、おすすめです。

一方シートのデメリットは、使用するのに少し手間とコツがいること。
スライディングシートは筒状になっている大きな布です。
使用時は、利用者を体位変換してすべり込ませたり少しずつ入れ込んだりするため、多少の手間がかかります。
また、抜きとるときに上側の布をひっぱると利用者もずるっと動いてしまうので、注意が必要です。

抜きとるときは、シートをできる限りまとめ、下側の布をつかんでひっぱりましょう。

スライディングボードの特徴

スライディングボードのメリットは、簡単に使えること。
シートと比べ、ボードの抜き差しは利用者の身体を傾けるだけでOK。時間がないときにより重宝する道具のひとつでしょう。

一方デメリットは、スライディングシートと比べると利用者のおしりに負担がかかること。
硬いボードの上をすべるため、骨が突出している脂肪の少ない利用者などにはとくに大きな負担となります。

また、拘縮の利用者の場合は褥瘡対策としてエアーマットを使用していることが多いです。
エアーマットは通常よりもおしりが深く沈むため、ボードは差し込みづらくなります。うまく差し込めたとしてもボードが上を向いてしまうため、使用しづらいでしょう。
さらに、車いすに低反発クッションを入れている場合も多いです。
ボードは長さが短いので、低反発クッションにおしりが触れた時点で摩擦が生じ、止まってしまいます。

これらの理由から、私は拘縮ケアでは「スライディングシート」をおすすめしています。
また、介助用リフトも効果的です。しかし、施設や在宅などすべての環境で導入できるわけではないので、今回はスライディングシートを解説しました。

田中先生
田中先生
ボードを使用した介助もシートと同じ手順で行いましょう。
シート同様、ボードを入れるときもおしりの半分以下の面積しか入らないため、ボードに触れていない部分で摩擦が生じます。利用者さんの上体を移乗するほうへ傾けていないと、摩擦抵抗を受けてうまくいきません。

入れるときはボードと反対側に傾け、移乗するときは、ボード側に傾けてから動かしましょう。

田中先生のワンポイントアドバイス

「●●さんは家族がいないから着替えやすい服を用意してもらえない」
「10人中9人に効果はあったけれど、1人は効果なかった。それってどうなの?」

私たちは、この拘縮ケアに限らず新たな知識・スキルを習得すると、「全員に当てはまらないか」と考えてしまいがちになります。
また、効果が出ない人が少しでもいると「よくない」と思ったり、残念に感じたりしてしまいます。

1日の業務量が少しでも減ればマル!

そこで、少し考え方を変えてみてはいかがでしょうか。
「全員に当てはめる」ではなく「1日の業務量」にフォーカスしてみるのです。

たとえば、9人ユニット中効果があったのはAさんひとりだけだったとします。たったひとりであっても拘縮が改善したのなら、1日の業務量はどうなるでしょう?
人手も時間もかかっていたAさんの介助が楽になったら、どうでしょう?

Aさんひとりの改善でも、介護職の1日の負担は大きく変わるのではないでしょうか。

たとえば、100%改善しなくても10人全員が10%ずつ改善したら、これもまた1日の負担は大きく変わるでしょう。

もちろん、全員に100%の効果が出るのが一番です。
しかし、全員に当てはまる万能な技術というものはないのです。
障害の特性だったり、個人差だったりさまざまな要因によって効果が出ない人もいるでしょう。

「全員に効果がでなかった」と悲観するのではなく、「Aさんの更衣介助が楽になって、1日の負担が減った」と考えたほうが、利用者にとっても介護者にとっても楽になっていくのではないでしょうか。

どうしても、私たちは欲ばって全員に当てはめたくなるんですよね。
ひとり残らず良くしたいという気持ちは、素晴らしいものです。
けれど、100%の理想をめざすと精神的にも身体的にもしんどくなってしまいます。
今までより少しでも改善したのなら、それはとてもうれしいことではないですか?
ぜひプラスなことに目を向けて、少しずつでも利用者・介護者の負担を減らしてみてください

今回で最終回となる全6回の「完全拘縮ケアマニュアル」は、いかがだったでしょうか。
紹介した拘縮ケアの知識とスキルが、介護職と利用者の毎日の負担減に役立つことを切に願っています!

参考文献・サイト

  • 田中義行監修(2016)「オールカラー 介護に役立つ! 写真でわかる拘縮ケア」株式会社ナツメ社
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